第73号:政策への想像力が欠如しているオーナー経営はエンジェル税制で身を滅ぼす!

この度、焼き肉チェーン運営会社の元代表が、エンジェル税制を悪用し、
所得税約3億6,700万円を脱税した疑いで逮捕されるという事件が起こりました。

報道によりますと、元代表は、自ら経営していた会社の株式売却等によって得た所得について、
知人が経営する会社へ投資した形をつくり、エンジェル税制の適用を受けたとされています。

ところが、その投資資金の一部を、自らが関係する会社へキックバックさせていた疑いが持たれています。

逮捕前の調べに対しては、「制度を利用して節税しただけ」

と説明し、容疑を否認していたとも報じられています。

現段階では、あくまでも容疑であり、有罪が確定した事件ではありません。
また、投資を受けた企業側を含む関係者が、
どの範囲まで意思を通じ合わせていたのかについても、
今後の捜査によって明らかにされるべきことです。

しかし、仮に、投資する側と投資を受ける側が最初から資金還流を予定し、
資金の配分を巡って内部対立まで起こしていたのであれば、
今回の事件は、投資する側も、投資を受ける側も、国の本旨を理解しようとせず、

「エンジェル税制の対象企業へ投資すれば、税金を減らせる」

という外形だけを見て、制度を利用した“あってはならない事件”と言えます。

では、なぜ、このような事件が起きたのでしょうか?


私は、今回の事件の根底には、

「投資=節税」という、あまりにも幼稚な理解と、国家が税制を設けた真意を考える想像力の欠如があったのではないかと思います。

エンジェル税制とは、「この会社の株式を買えば税金が安くなる」

というだけの制度ではありません。

国家が設ける制度に、「この箱にお金を入れれば、機械的に税金を減らします」

といった経済的意図無き制度など、あるはずがないのです。

国が税収の一部を手放す以上、そこには必ず、

「税収を減らした以上の経済的、社会的な成果を生み出せるはず」

という国の意図があるのです。

この当たり前のことを想像できなかったことが、今回の事件の本質ではないでしょうか。

私は、制度の条文や申請書の外側にある国家の意図を読み取る力を、

「制度想像力」と呼びたいと思います。

制度想像力とは、

①なぜ国は、この制度を設けたのか

②なぜ、この要件が置かれているのか

③国は制度利用者に、どのような成果を期待しているのか

④自らの行為は、その期待に応えているのか

を考える力です。

エンジェル税制の歴史を振り返れば、その意図は明確です。

1995年には、中小企業の創造的事業活動を促進し、研究開発型企業を支援するための中小企業創造活動促進法が制定されました。

その後、1997年に、ベンチャー企業へ投資する個人投資家を税制面から支援するエンジェル税制が創設されました。

つまり、制度の出発点には、

・創造的事業活動を増やす

・研究開発型企業を育てる

・民間資金を成長企業へ流す

・新しい産業と雇用を生み出す

という明確な方向性があったのです。

私は、この政策目的を、経営者の言葉に置き換えると、

「地域経済発展に寄与する創造的事業活動に資金を提供した投資家へ、国が税制上の恩恵を与える制度」だと考えています。

もちろん、法律の条文に「地域経済発展に寄与した投資家へ報いる」と、そのまま書かれているわけではありません。

しかし、投資された資金によって研究開発が行われ、新しい商品やサービスが生まれ、
売上、雇用、所得、利益、納税が生まれれば、結果として地域だけでなく、
日本全体の付加価値は増加します。

要は、GDPが増え、国が豊かになるのです。

だから国は、将来の経済成長を生み出す投資家に対し、現在の税負担を軽くするのです。

エンジェル税制では、企業が本店所在地を管轄する都道府県等へ確認申請を行います。

これは、エンジェル税制が、全国規模の巨大企業だけを育てようとしている制度ではないことを示しています。

地方で数人が始める小さな研究開発。

地域の御客様が抱える問題を解決する新商品。

町工場の技術から生まれる新たな製造方法。

地域資源を活用した新サービス。

こうした一つ一つの小さな創造的事業活動を、各地域に積み重ねる。

その積み重ねによって地域の付加価値が高まり、最終的に日本全体の経済が豊になる。

だからこそ、都道府県等が企業要件を確認し、国の税制上の優遇へつなげる仕組みになっていると考えれば、制度の全体像が見えてくるのです。

現在の事前確認制度では、企業が資金調達前に要件の確認を受けることができます。
事前確認を受けた企業については、経済産業省・中小企業庁のホームページで会社名等が公表されます。

自ら投資家を求め、自らの事業を広く周知しようとするのであれば、経済産業省・中小企業庁のホームページで会社名等が公表し、広く投資を募ろうとするはずです。

今回問題になったエンジェル税制認定企業が経済産業省・中小企業庁のホームページで会社名等を公表していなかったことからも分かりますように、

不正を目論むエンジェル税制認定企業は、自社の名前が広がることを怖れるのです。

そのうえで、私は投資家としての実務的な判断を申し上げます。

一般の個人投資家へ投資を求めながら、

・事業を公に説明していない

・代表者が表に出てこない

・ホームページや事業資料がない

・事前確認を受けているのか説明しない

・投資資金の使途を明らかにしない

・具体的な数値計画を示さない

こうした企業には、絶対に投資してはいけません。

「公に募集していないから、法律違反である」という意味ではありません。

しかし、一般投資家から大切な資金を預かろうとする企業が、
社会に対して事業を説明する姿勢すら持たないのであれば、
投資対象としての信頼性に重大な疑問があります。

私はこれまで、「経営者の顔が見える企業に投資すべき」

とお伝えしてきました。

この原則は、今後も変わりません。

エンジェル投資において、経営者本人に会い、

・なぜ、この事業を行うのか

・投資資金を何に使うのか

・どのような研究開発を行うのか

・いつまでに、何を完成させるのか

・売上、雇用、顧客数をどこまで伸ばすのか

・失敗した場合、どのように対応するのか

を確認することは、絶対に必要です。

しかし、今回の事件から得るべき教訓は、

「経営者の顔が見えれば安心である」

という事実を真っ向から否定することとなりました。

今回のようなケースでは、投資家と経営者が互いをよく知り、顔が完全に見えていた可能性が高いです。

顔が見えていたからこそ、通常では成立しえない資金還流の仕組みができあがった可能性すらあります。

つまり、顔が見えることは必要条件ですが、十分条件ではないのです。

では、経営者の顔を見たうえで、何を見るべきなのでしょうか?

私は、次の三つを見るべきだと思います。

第一は、エンジェル税制における国の意図を理解しているかです。

「投資家の税金がいくら減ります」という話から始める経営者ではなく、

「この投資によって、この地域に、このような創造的事業活動を実現します」

と説明する経営者かを見るのです。

第二は、定量的な事業計画を持っているかです。

定量的とは、数字で測定できるという意味です。

①研究開発費はいくらか

②いつまでに試作品を完成させるか

③何社のモニターを集めるか

④何人を採用するか

⑤いつ売上を計上するか

⑥何年後にどこまで事業を成長させるか

が具体的に示されているかを確認します。

「将来有望です」

「必ず成長します」

「大きな市場があります」

というかけ声だけでは、事業計画とは言えません。

第三は、投資資金が研究開発資産へ変わるメカニズムを保持しているかです。

研究開発資産とは、会計上の勘定科目だけを指しているのではありません。

技術、データ、ノウハウ、試作品、顧客検証の結果、ブランド、販売方法など、次の売上を生み出す経営資源を意味します。

投資資金が会社へ入り、その資金が別会社を経由して投資家側へ戻るのであれば、会社には何も残りません。

商品も残りません。

技術も残りません。

雇用も残りません。

地域経済にも、何一つ残りません。

これでは、国家が税収を投下してまで支援する理由がないのです。

では、これからエンジェル投資家は、どうすべきなのでしょうか?

結論は、次の五点です。

①「投資=節税」と考えない

②制度の背景にある国家の意図を考える

③自らの事業を公に問うている企業を選ぶ

④経営者本人から、直接、定量計画と資金使途を確認する

⑤投資資金が地域と日本の付加価値へと変える道筋を確認する

そして、キックバック、裏契約、関係会社を通じた資金還流の提案が一つでもあれば、その場で投資を中止するべきです。

大事なことなので、もう一度お伝えします。

エンジェル税制は、投資すれば節税できる制度ではありません。

創造的事業活動を通じて地域と日本の経済を豊かにする投資家へ、国が税制上の恩恵を与える制度なのです。

今回の事件を受け、今後、投資家と発行会社との関係、投資後の資金使途、関係会社取引などに対する確認が厳しくなる可能性があります。

そうしたことは、制度の本旨を理解し、税務署や都道府県等へ堂々と説明できる投資家と企業にとっては、歓迎すべきことでしょう。

今回のコラムでは、エンジェル投資家に最も必要なものは、
税額を計算する知識だけではなく、国家が制度を設けた理由を考える「制度想像力」であることをお伝えさせていただきました。

次回は、投資を受ける側の視点から、

「研究開発資産を積み上げる覚悟のない企業が、なぜエンジェル起業をしてはいけないのか」

について述べさせていただきます。

なお、エンジェル税制の正しい活用方法について詳しく知りたい方、
エンジェル税制を活用した新規事業の構築を検討されている方、
株式会社maximumへの投資を検討されている方は、
株式会社maximumまでお問い合わせください。

https://www.mku-consulting.com/maximuminc/

一人でも多くのオーナー社長が、国家の意図を想像する力を持ち、
正しいエンジェル税制との付き合い方を身につけ、
地域経済から日本経済を豊かにする存在であり続けますよう。

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