第72号:ホルムズショックでこそ自社を飛躍させる!「攻め」と「守り」の融資・外部資金調達策6選

前回、前々回のコラムで、
私のもとに相談に来られた健康食品の素材メーカーを経営するオーナー社長。
今回のコラムでも、その社長の相談の続きから始めさせていただきます。

前回のコラムでお伝えした補助金について、そのオーナー社長の感想は、誠に意外なものでした。

いつも、「北島先生、何か良い補助金がありませんか?」と言ってこられる“こちらのオーナー社長”。
今回の反応は全く異なるものでした。

「北島先生!補助金は当社が資金の一部を支払わなければなりません!」
「当社は、今回のホルムズ海峡封鎖問題を受けて、創業当初以来初の赤字に転落しています!」
「今の当社には、補助金や助成金の自社負担分を賄う余裕すらないのです!」とのことでした。

そこで、今回のコラムでは、
“ホルムズショックのようなショック時にこそ活用しうる政策と税制”
“ホルムズショックのようなショック時にこそ活用しうる補助金と助成金”に続き、
“ホルムズショックにこそ活用すべき融資・外部資金調達策”について、お伝えして参ります。

ホルムズ海峡を巡る問題は、原油や天然ガスの価格だけでなく、
電気料金、原材料費、包装資材費、輸送費など、さまざまなコストが高騰します。

しかも、コストが高騰しても、販売先への価格転嫁には、一定の交渉期間が必要です。
その間、薄利、ないしは、赤字での事業を強いられます。

仮に、月間の原材料費や物流費が、従来より500万円増えれば、
価格転嫁まで6か月かかるだけで、3,000万円もの追加運転資金が必要になります。

だからこそ、ポストホルムズでは、単に「いくら借りられるか」を考えるだけでは不十分なのです。

資金を調達した後の金利、元金返済、配当、保証料、保険料などの負担を、いかに軽くできるかが求められます。

このような状況下では、低金利であっても、毎月多額の元金返済を求められる融資では、会社の自由度は低下します。
また、返済義務のない出資であっても、高い配当、過度な議決権、株式上場や会社売却を強く求められれば、経営者の自由度は失われます。

・据置期間が長いこと

・赤字時の金利負担が軽いこと

・当面、ないしは半永久的に返済義務がないこと

・配当を固定費にしないこと

・経営権をできる限り維持できること

という視点が、通常時よりも重要になって参ります。

今回のコラムでは、このような視点から、ホルムズショック時に活用を検討したい6つの資金調達策をご紹介します。

ここまで私は、第66号から第68号で、数字で影響を見極め、供給順位を高め、事業ミックスを転換するという、自社の内側を固める経営を。
第69号からは、資本の語り方、政策と税制、補助金と助成金という、外部の力の使い方をお伝えして参りました。
今回はその締めくくり、外部からの「資金呼び込み」のお話です。

ここで、私が長年の資金の現場で確信していることを、一つお伝えします。
それは、ショック時の資金調達で問われるのは、「いくら借りられるか」ではなく、
「調達した後も、会社が経営の自由度をいかに保てるか」だということです。
私はこれを「調達後の自由度」と呼んでいます。

①返済・利息・配当という固定の負担が軽いこと。
②経営の主導権を、他人に握られないこと。
この二つを欠いた資金は、入れた瞬間に、会社を内側から縛り始めます。

そこで今回は、この「調達後の自由度」を守れる六つの策を、返済を軽くする融資から、返済のいらない外部資本まで、順にご紹介します。

1 日本政策金融公庫「経営環境変化対応資金」

ポストホルムズでは、売上が大きく減らなくても、原材料費や電気料金、輸送費の上昇で、利益率だけが下がる会社が増えます。
価格改定までは数か月かかり、その間に元金返済まで始まれば、資金繰りは一段と苦しくなります。
だから、まず必要なのは、低利であることに加え、返済開始までの「据置期間」を長く取れる運転資金です。

そこで活かしたいのが、日本政策金融公庫の「経営環境変化対応資金」です。
環境変化で一時的に売上や利益率が悪化した中小企業が対象で、
原材料・エネルギーコストの上昇や中東情勢の影響により、売上高・売上総利益率・営業利益率のいずれかが前期より5%以上下がっていれば、
特別利率の対象となる可能性があります。

運転資金なら限度額7,200万円まで、返済10年以内・据置3年以内で組めます。

例えば、原材料費と物流費が毎月300万円増え、価格転嫁まで10か月かかる会社なら、3,000万円の追加資金が要ります。
これを返済10年・据置3年で調達できれば、最初の3年間は元金返済を抑え、価格改定や省エネ化を先に進められます。

借りた直後から返済に追われるのではなく、最大3年を「収益を立て直す時間」に変えられる。
これが、この制度の値打ちです。

2 日本政策金融公庫「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」

ポストホルムズでは、既存事業の利益が減る一方で、代替原料の新商品や海外調達先の開拓に、新たな資金が要ります。
しかし通常の融資を積み上げれば、毎月の元金返済が増え、次の融資も受けにくくなります。
だから求められるのは、毎月の元金返済がなく、赤字時の金利も軽く、金融機関から「自己資本に近い資金」と見てもらえる資金です。

そこで活かしたいのが、日本政策金融公庫の「挑戦支援資本強化特別貸付」、いわゆる資本性ローンです。
新規事業や事業転換などに取り組む中小企業が対象で、大きな特徴は、毎月元金を返す方式ではなく、原則として期限一括返済であることです。
しかも、税引後が赤字の期間の金利は年0.50%、無担保・無保証人で利用できます。

例えば新規事業に5,000万円。
通常融資を10年返済で借りれば、金利を除いても年約500万円の元金返済が生じますが、
資本性ローンなら返済期日まで元金返済はなく、赤字期間の金利は年25万円で済みます。
一定の条件を満たせば、調達した資金は自己資本とみなされることもあり、財務体質そのものを強くする制度でもあるのです。

3 NEXI「中小企業・農林水産業輸出代金保険」

ポストホルムズでは、国内だけで原材料高を吸収しきれず、海外販売で売上を確保しようとする会社が増えます。
しかし、中東情勢が不安定な時期は、取引先の倒産や送金規制などで輸出代金を回収できない危険も高まります。
5,000万円を輸出しても回収できなければ、仕入代金や製造費まで自社の持ち出しです。
だから、海外取引を増やす前に、軽い保険料で売掛金を守ることが求められます。

そこで活かしたいのが、日本貿易保険(NEXI)の「中小企業・農林水産業輸出代金保険」です。
経済産業省が所管し、取引先の破産といった信用危険だけでなく、
戦争・送金規制などの非常危険で代金を回収できない場合も、損失の原則95%がカバーされます。

例えば5,000万円を輸出し、取引先が倒産しても、95%が保険対象なら、保全されるのは最大4,750万円。自社の負担を250万円程度まで圧縮できます。
高い利息を払って資金を集める前に、まず回収不能の損失を防ぐ。
これこそが、最も負担の軽い資金繰り対策なのです。

4 中小企業投資育成株式会社

ポストホルムズでは、供給不安に備えた設備投資や新規事業に、まとまった資金が要ります。
しかし、借入だけで賄えば、売上が戻らないうちから利息と元金返済が重くのしかかります。
だから求められるのは、毎月の元金返済がなく、利益や資金繰りに応じて配当を考えられる「長期の安定資本」です。

そこで活かしたいのが、中小企業投資育成株式会社による出資です。
中小企業投資育成株式会社法に基づく公的な投資機関で、東京・大阪・名古屋の3社があります。
投資後の議決権比率は50%以内で相談でき、経営者が過半数の議決権を保ったまま、原則として株式を長期保有する「安定株主」を迎えられます。

例えば5,000万円を銀行から10年返済・金利2%で借りれば、初年度は元金約500万円に利息約100万円が加わります。
これを増資で調達すれば、元金返済も利息もありません。
配当は、赤字でも必ず払う融資の利息とは違い、株主総会で決める費目です。
借入ではなく資本として入れる。
それだけで、過半数の議決権を守りながら、財務基盤を強くできるのです。

5 地域VC・CVC・事業会社との資本提携

ポストホルムズでは、資金だけ確保しても、仕入先、販売先、物流網、技術、人材が足りなければ、新規事業は前に進みません。
だから求められるのは、資金に加えて、販路・技術・仕入網・人材までを同時に得られる「資本提携」です。

そこで活かしたいのが、地域VC、CVC、事業会社からの出資です。
地域VCは地域金融機関や自治体と組んで地域企業へ投資するファンド、CVCは事業会社が相乗効果を狙って成長企業へ投資する仕組みです。

例えば、代替原料の新商品開発に5,000万円が必要な会社が、その原料を持つ事業会社から普通株式で出資を受ければ、
固定金利も毎月の元金返済もなく、相手の仕入網や販売網まで使えます。

ただし、VCやCVCは、将来の株式売却や独占的な取引権を求めてくる場合もあります。
だからこそ、経営の自由度を守るには、出資比率を少数に抑え、固定配当や過度な拒否権を付けないことが肝心です。
この一線さえ守れば、資金・販路・技術を、一度に手に入れられるのです。

6 エンジェル税制を活用した外部資本の呼込み

そして、最後は、この連載を貫いてお伝えしてきた、エンジェル税制です。
ポストホルムズでは、既存会社に借入金を積み上げるだけでは、次の成長事業を育てきれません。
新規事業は立上げ直後の売上が小さく、その段階で毎月の元金返済や高い配当を求められれば、軌道に乗る前に資金が尽きます。
だから、新規事業にこそ、返済義務も固定配当もなく、個人投資家にとっても投資しやすい自己資本を呼び込むことが求められます。

そこで活かしたいのが、経済産業省が所管するエンジェル税制です。
要件を満たす未上場企業へ投資した個人投資家が、所得税の優遇を受けられる制度で、
優遇措置Aでは「投資額−2,000円」を総所得から控除でき、優遇措置Bやプレシード・シード特例では、株式譲渡益から投資額を控除できます。

例えばエンジェル税制認定企業が8人から500万円ずつ集めれば、返済義務のない4,000万円を調達できます。
固定配当や買取義務のない普通株式なら、年間の利息も元金返済もゼロ。

ただし、大事なのは投資契約の設計です。
一人に多くの議決権を与えず、複数の投資家から少額ずつ集め、固定配当・拒否権・短期の買取義務を付けない。
議決権にこだわらない投資家には無議決権株式を使えば、支配権を保ったまま自己資本を厚くできます。

ホルムズショックの今こそ、エンジェル税制認定企業をグループ内に持ち、代替原料や新商品、海外販路といった新規事業を立ち上げる。
これこそが、危機に強い事業体をつくる、最も確かな一手なのです。

ホルムズショック時の資金調達で重要なのは、最も多くのお金を集めることではありません。

調達した後も、会社が耐えられる資金であるかを見極めることです。

例えば、必要資金が1億円であっても、その全額を通常融資で調達すれば、元金返済と利息が経営を圧迫します。

・経営環境変化対応資金 3,000万円

・資本性ローン     2,000万円

・投資育成会社等の出資 2,000万円

・エンジェル投資    3,000万円

というように資金調達先の分散が図れれば、

足下の資金繰りが確実に楽になります。

ホルムズショックによって資金繰りが苦しくなった時こそ、

「いくら調達できるか」ではなく、「最も負担の軽い資金を、どのように組み合わせるか」が重要になってくるのです。

なお、本コラムでお伝えした内容、

エンジェル税制認定企業を組み込んだ外部資金戦略について、

さらに詳しく知りたい方は、ぜひ下記よりお問い合わせください。

https://www.mku-consulting.com/maximuminc/

一人でも多くのオーナー社長が、

ホルムズショックという危機を飛躍の契機へと変え、

エンジェル税制を外部資金戦略に組み込みながら、

低負担の資金調達によって新しい事業を育て、

永続不滅のファミリービジネス群を構築されますことを、心より願っております。

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