この度、焼き肉チェーン運営会社の元代表が、エンジェル税制を悪用し、所得税約3億6,700万円を脱税した疑いで逮捕されるという事件が起こりました。
報道によりますと、元代表は、知人が経営する会社へ投資し、
その投資資金の一部を自らの関係会社へキックバックさせていた疑いが持たれています。
現段階では容疑であり、有罪が確定したものではありません。
しかし、仮に報道されているような資金還流が行われていたのであれば、
今回の事件では、投資する側だけでなく、投資を受ける企業側にも、
「エンジェル税制認定企業とは、何のために存在する企業なのか」
という根本的な理解が欠けていたのではないでしょうか。
エンジェル税制の対象企業になることは、
「投資家へ節税の機会を提供する会社になること」ではありません。
投資家から預かった資金を活かし、新しい商品、サービス、技術、市場を生み出す会社になることです。
言い換えれば、研究開発資産を積み上げる主体になることなのです。
私は、前回のコラムで、エンジェル税制の背景には、
・創造的事業活動を増やす
・研究開発型企業を育てる
・民間資金を新しい事業へ流す
・地域と日本の付加価値を増やす
という国家の意図があるとお伝えさせていただきました。
今回は、その意図が、現在の企業要件にどのように表れているのかを考えてみたいと思います。
現行のエンジェル税制では、企業の設立経過年数や利用する優遇措置に応じて、異なる要件が設けられています。
例えば、
・研究者または新事業活動従事者の人数と構成割合
・試験研究費等の対収入金額比率
・営業キャッシュ・フロー
・売上高成長率
・外部資本の割合
・大規模法人グループに属していないこと
などです。
さらに、プレシード・シード特例等の一定の制度区分では、
試験研究費等の対出資金額比率が30%を超える見込みを記載した事業計画を持つことが求められます。
試験研究費等には、研究開発だけでなく、新しい事業を市場へ浸透させるための一定の宣伝費やマーケティング費用等が含まれる場合があります。
ここは、大変重要な部分ですので、正確にお伝えします。
現在の税制が、すべてのエンジェル税制対象企業に対し、
「毎年、累積投資額の30%超を必ず研究開発へ使い続けなさい」
と、一律に義務づけているわけではありません。
30%超という基準は、一定の制度区分において、対出資金額比率として事業計画に記載することが求められるものです。
しかし、私は、制度の本旨を理解するうえで、この「30%超」という数字は、極めて象徴的なものと考えています。
なぜ、国は、投資額と試験研究費等との関係を、わざわざ確認するのでしょうか?
投資家から資金を集めること自体が目的であれば、このような要件は必要ありません。
会社へ入った資金を預金として置いておくだけでよいのであれば、研究開発費の計画も必要ありません。
国は、投資によって得た資金を、新しい価値を生み出す活動へ変えてほしいのです。
商品を開発する。
試作品をつくる。
データを集める。
顧客に試していただく。
改善を重ねる。
市場へ伝える。
販売方法を確立する。
こうした創造的事業活動へ資金を投入し、企業の中へ、将来の売上を生み出す研究開発資産を蓄積してほしいのです。
私自身、エンジェル税制を活用する企業の事業計画を考えた際、
「この金額を、本当に研究開発と市場開拓へ使い続けられるだろうか」
と、改めて考えさせられました。
投資を受けることは簡単に見えるかもしれません。
しかし、投資を受けた後、その資金を使って、成果を積み上げ続けることは簡単ではありません。
1億円の投資を受けたとします。
一定の区分で、30%超に相当する試験研究費等を見込むのであれば、3,000万円を超える規模の具体的な計画が必要になります。
その3,000万円を、
・何の開発に使うのか
・誰が研究するのか
・どのような成果物をつくるのか
・いつ完成するのか
・どのように顧客へ届けるのか
・失敗した場合、次の検証をどう行うのか
まで、考えなければなりません。
単に、「AIを使います」
「健康に関する商品を開発します」
「社会課題を解決します」
という程度では、研究開発計画とは言えません。
だからこそ、私は、
何の経営資源も持たず、研究開発の方向性も定まっていない企業が、
節税メリットだけを掲げてエンジェル起業を行うことには、相当な危険があるものと考えます。
もちろん、研究開発の方向性を固めるまで、エンジェル税制を利用してはいけない、
という意味ではありません。
エンジェル税制は、本来、設立間もない企業へのリスクマネー供給を促進する制度です。
明確な技術、創業者の強い専門性、解決すべき顧客課題、具体的な研究開発計画があれば、ゼロから始めた企業であっても、大きな成長を実現できるでしょう。
しかし、何の準備もなく、
「エンジェル税制を使える会社をつくれば、お金が集まる」
と考えるのであれば、絶対にやめるべきです。
投資を受ける前に、研究開発の種が必要です。
研究開発の種とは、
・既に持っている技術
・顧客から寄せられた未解決の要望
・蓄積したデータ
・現場で発見した非効率
・既存商品では満たせない需要
・自社にしか解決できない社会課題
です。
この研究開発の種を持つ企業として、
私は、既に一つの基幹事業を持つオーナー企業には、大きな可能性があると考えています。
一社目の基幹事業を通じて、御客様と向き合ってきた企業には、
「御客様が本当に困っていること」
についての情報が蓄積されています。
既存の商品では解決できない要望。
現場の社員だけが知っている不便。
業界では当たり前とされている非効率。
まだ商品になっていない技術。
これらを研究開発の種として、第二、第三の事業を生み出すのです。
その際、基幹事業の中にある研究開発部門を、新たな会社として分離する方法があります。
例えば、
①基幹事業の御客様が抱える未解決課題を特定する
②その課題を解決する技術や商品を研究する
③研究開発部門を新会社として分離する
④外部投資家から成長資金を集める
⑤新会社へ研究開発資産を積み上げる
⑥成果を基幹事業と新会社の双方で活用する
という流れです。
私は、この方法を、
「研究開発資産蓄積型エンジェル起業」と呼びたいと思います。
この形であれば、新会社は、税制優遇を受けるためにつくられた空箱ではありません。
既存事業から生まれた明確な顧客課題を解決する研究開発主体です。
基幹事業には、既に御客様、販売網、信用、データ、技術、人材があります。
新会社には、それらを活用しながら、新しい商品やサービスを生み出す役割があります。
両社が互いに経営資源を磨き合えば、投資資金は、単なる支出で終わりません。
次の売上を生み出す資産へ変わります。
ここで重要になるのが、私がこれまでお伝えしてきた、
キラー経営資源です。
キラー経営資源とは、私のコンサルティングで用いる造語ですが、
一言で申し上げれば、自社に利益をもたらしてくださる御客様が、自社を選び続ける理由を支える中核的な経営資源です。
高い技術力かもしれません。
圧倒的なデータ量かもしれません。
顧客対応力かもしれません。
研究体制かもしれません。
ブランドや信用かもしれません。
エンジェル起業で最も大切なことは、集めた投資資金によって、このキラー経営資源を磨き上げるべく研究開発資産を積み上げることです。
投資資金を使えば使うほど、自社を御客様が選び続ける理由が強くなる。
研究開発を行えば行うほど、模倣困難な経営資源が蓄積される。
その結果、売上と利益が増え、企業価値が高まる。
この構造が必要なのです。
私が代表を務める株式会社maximumも、
「エンジェル税制を使えるように」
という理由だけで設立・運営している会社ではありません。
私の基幹事業であるグループ経営最適化のコンサルティングを通じ、
・オーナー社長の個人資金をどのように極大化するか
・個人資金を次の事業へどう循環させるか
・ファミリービジネスの永続的繁栄をどう実現するか
という課題に向き合う中から生まれた事業です。
価値理念が先です。
そして、御客様の課題を解決するキラー経営資源があります。
そのキラー経営資源を磨き上げるのが研究開発資産なのです。
そして、その方向性に適合する公的制度として、エンジェル税制を活用するのです。
順番を絶対に逆にしてはいけません。
私は、補助金の相談を受けた際、同じことをお伝えしています。
補助金を使える事業を探してはいけません。
自社が本来取り組むべき事業を先に決めるのです。
そして、その事業が国や地域の政策方針と一致する場合に、補助金を活用するのです。
公的制度とは、会社の方向を決めるものではありません。
正しい方向へ進んでいる会社を、さらに速く前へ進める追い風です。
制度に会社を合わせれば、制度が終わった瞬間に会社も止まります。
会社の方向性に制度を合わせれば、制度が変わっても事業は残ります。
研究開発資産も残ります。
御客様も残ります。
キラー経営資源も残るのです。
では、これからエンジェル起業家は、どうすべきなのでしょうか?
結論は、次の六点です。
①制度より先に、解決すべき御客様の課題を決める
②自社のキラー経営資源を特定する
③投資額に対応する定量的な研究開発計画をつくる
④研究開発によって会社に何が残るかを明確にする
⑤投資後の資金使途と成果を説明できる仕組みをつくる
⑥税務署や都道府県等へ、いつでも堂々と説明できる経営を行う
大事なことなので、もう一度お伝えします。
エンジェル起業とは、投資家へ節税の機会を提供することではありません。
投資家から預かった資金を、地域と日本の未来を生み出す研究開発資産へ変えることなのです。
今回の事件を契機として、今後、投資後の資金使途、研究開発計画と実績の差異、関係会社取引などへの確認が厳しくなる可能性があります。
しかし、本当に研究開発を行い、その成果を会社へ蓄積している企業は、規制強化を恐れる必要はありません。
むしろ、実態のない企業が排除され、誠実な企業の信用が高まる機会になるはずです。
今回のコラムでは、エンジェル税制を活用する企業には、
研究開発資産を積み上げ続ける覚悟が絶対に必要であることをお伝えさせていただきました。
次回は、
「研究開発のために預かった資金を投資家側へ戻すキックバックが、なぜエンジェル税制の本旨と絶対に両立しないのか」
について述べさせていただきます。
なお、エンジェル税制を活用した第二、第三の事業づくり、
研究開発資産蓄積を活かしたキラー経営資源磨き上げの道筋、
株式会社maximumの取り組みについて詳しく知りたい方は、株式会社maximumまでお問い合わせください。
▶ https://www.mku-consulting.com/maximuminc/
一人でも多くのオーナー社長が、地域経済を発展に導く創造的事業活動を生み出し、
御客様から教えられた研究開発の種をキラー経営資源の磨き上げに活かし、
永続不滅のファミリービジネス群を築き上げすことに成功しますよう。