先日、ある金融機関からの紹介で、
地方都市で肥料を製造しているオーナー社長から御相談を受けました。
年商は約3億円。
借入金も約3億円。
年間の借入金返済額は、2,000万円を超えています。
この会社は、現在も私の支援が続いている会社です。
社長から最初に受けた相談は、借入過多による返済原資の問題でした。
詳しく調べて参りますと、返済原資を生み出すためには、
二つの課題を解決する必要があることが分かりました。
・①原材料・仕掛品・製品在庫を減少させ、運転資金を改善すること
・②新たなカテゴリーの肥料を製造するため、新技術を導入すること
この二つの取り組みにより、
年商で1億2,000万円、運転資金で3,700万円が改善されることが可視化されました。
そこで、在庫量と製造計画をAIで連動させる仕組みと、
新たなカテゴリーを製造するための技術導入を組み合わせ、
二つの課題を同時に解決する方針とプロセスを定めました。
そこに必要な資金は、約800万円です。
問題は、この800万円を、どこから捻出するのかでした。
社長の頭の中には、三つの案がありました。
・①現在経営している会社の経費と内部留保で賄う
・②自ら所有する有価証券や不動産等の私財を換金、又は担保として活用し、役員借入金として会社へ入れる
・③金融機関から新たに借り入れる
皆様なら、どの方法を選ばれますか?
これまで、この社長が言われた三案をベースに、
第76号では、会社の経費と内部留保で賄う案について。
第77号では、社長の私財を役員借入金として会社へ入れる案について検証して参りました。
そして、今回のコラムでは、三つ目の案、「金融機関から800万円を借り入れる案」について検証して参ります。
設備投資や新技術の導入に資金が必要となれば、真っ先に金融機関へ相談する。
これは、多くのオーナー社長にとって、最も自然な判断だと思われます。
金融機関から融資を得ることは、手元資金を減らさずに済みます。
社長個人の私財も使わずに済みます。
支払利息を損金にできれば、税負担も減らせます。
従いまして、特に、低金利時代では、
金融機関が「貸せます」と言う限り、借入は問題ないという思想が根付いていたように思います。
しかし、「借りることができるお金」は、「本当に借りるべきお金」なのでしょうか?
私は、これまで数多くの資金調達と調達をテコにしたV字回復の現場に関与して参りました。
その経験から、ここで一つの原理原則をお伝えします。
借りることができるお金と、借りるべきお金は、全く違います。
借りるべきお金とは、その資金が生み出す営業上の資金によって、返済時期と返済原資を合理的に説明できるお金です。
反対に、成果が生まれる時期を説明できないにもかかわらず、先に返済だけが始まるお金は、金融機関が貸してくれると言ってきたとしても、慎重に扱わなければなりません。
では、今回の800万円を、年利2%、10年返済で借り入れた場合で考えてみましょう。
この場合、10年間に支払う利息は、概算で約88万円です。
その利息を損金にできる法人税等の減少効果を約29万円と見込めば、
実質的な利息負担は、約88万円-約29万円=約59万円です。
また、800万円の研究開発支出を損金として扱えるという前提では、
法人税等の減少効果は、800万円×33%=約264万円です。
したがって、研究開発支出による税効果から実質的な利息負担を差し引いた正味効果は、
約264万円-約59万円=約205万円となります。
ここだけを見れば、
「約205万円の効果があるのであれば、是非とも、借りるべき」
と思われるオーナー社長の方もおられるでしょう。
しかし、私は、ここに二つの大きな盲点があると考えています。
一つ目は、800万円の元本を返さなければならないことです。
二つ目は、研究開発の成果が出るかどうかにかかわらず、十年間、返済という固定的な資金流出が続くことです。
今回の会社では、既に借入金が約3億円あります。
年間返済額も、2,000万円を超えています。
そこへ新たな返済を加えれば、AIによって在庫が減り、新たな肥料が売れ始める前から、資金流出だけが先に始まります。
今回の研究開発は、正しいプロセスのもと行えば、予定通りの結果となりますが、
大概のケースは、正しいプロセスに正解などないという前提に立ちますと、
研究開発投資は、必ずしも予定どおりに成功するものではありません。
試作品をつくる。
AIの予測精度を高める。
社員が新しい仕組みを使いこなせるようにする。
御客様の評価を受け、商品を改良する。
成果が売上とキャッシュに変わるまでには、必ず時間がかかります。
そこで私は、研究開発へ入れる資金を、二つに分けて考えています。
一つは、「成果待機型資金」です。
もう一つは、「返済先行型資金」です。
成果待機型資金とは、研究開発の成果が生まれるまで、元本返済を待つことができる資金です。
返済先行型資金とは、成果が出るかどうかにかかわらず、約定日に返済が始まる資金です。
金融機関借入は、原則として返済先行型資金です。
株式による出資は、原則として成果待機型資金です。
新技術、新商品、新市場をつくるための800万円として、どちらが適していると思われますか?
大事なことなので申し上げます。
私は、金融機関借入を否定しているのではありません。
受注が確定している運転資金。
投資回収期間が明確な設備資金。
短期間で売上とキャッシュを生み出せる資金。
こうした資金ニーズのもとでは、金融機関借入は一つの選択肢となり得ます。
問題は、成果が生まれるまで時間のかかる研究開発へ、返済を待てない資金を入れることなのです。
そこで、私は社長へ、銀行借入でも、既存会社の内部留保でもない方法を提案しました。
・自らの影響力の範囲に、実態ある研究開発会社を設立する
・外部資本要件を含む制度要件を満たし、エンジェル税制の確認を受ける
・社長個人が、その認定企業へ800万円を投資する
・認定企業が、AIと新技術の研究開発を行う
・適正な契約等を整えた上で、その成果を既存の肥料製造会社の在庫削減と新商品開発へ活かす
こうした素地を整えた上で可能となる資金調達の一つ目は、
優遇措置Aを活用するパターンです。
役員報酬の一部を配当に変換する等、年収総額を変えずに所得構成を見直し、個人資金800万円をエンジェル税制認定企業へ投資します。
課税所得2,000万円という前提で考えますと、所得税等の減少が約284万円、翌年の住民税への影響を約80万円と見込み、合計約364万円の効果が生じる試算です。
しかも、借入金ではありませんので、認定企業に元本返済も利息支払いもありません。
オーナー家には800万円のエンジェル税制認定企業株式が残り、エンジェル税制認定企業には研究開発資産が積み上がります。
二つ目は、有価証券等の譲渡益を活かし、プレシード・シード特例を活用するパターンです。
仮に、社長個人に800万円の有価証券等の譲渡益があり、エンジェル税制認定企業へ投資するという前提では、
800万円×15.315%=約123万円
の所得税等を非課税とできる計算になります。
この方法でも、認定企業に元本返済と利息支払いはありません。
そして、オーナー家には800万円の認定企業株式が残ります。
認定企業には、研究開発資産が残ります。
私は、こうした資金調達方法を、
「第三の研究開発資金調達」と呼んでいます。
第三の研究開発資金調達とは、税金として外部へ流出するはずのお金を活かし、
返済不要の株式資本として研究開発へ循環させる方法です。
ファミリーには、節税効果と認定企業株式が残る。
既存事業には、AI、新技術、データ、ノウハウを活かした改善成果が残る。
地域と日本には、新しい商品、雇用、所得、付加価値が残る。
これこそ、「オーナー家よし」「ファミリービジネスよし」「社会よし」
という三方よしの資金調達です。
ここで、第76号から今回までに検証した五つの方法を整理します。
・①会社経費・内部留保は、法人税等が約264万円減る一方、既存会社の現金が減り、オーナー家に新たな株式は残らない
・②役員借入金は、社長個人の節税効果がなく、800万円が回収時期の見えない債権となる。
一定の前提では、優遇措置Aを使わない機会損失と相続税負担を合わせ、約604万円の負の影響が生じる可能性がある
・③金融機関借入は、正味効果が約205万円となる一方、800万円の元本返済と十年間の返済義務が残る
・④優遇措置Aは、約364万円の効果を見込みながら、オーナー家に800万円の認定企業株式を残せる可能性がある
・⑤プレシード・シード特例は、800万円の譲渡益を投資する前提で、約123万円を非課税としながら、オーナー家に800万円の認定企業株式を残せる可能性がある
優遇措置Aとプレシード・シード特例に、単純な優劣はありません。
毎年の役員報酬等による所得を活かすのであれば、優遇措置A。
有価証券等の譲渡益があるのであれば、プレシード・シード特例。
オーナー社長の所得と資産の状況に応じ、使い分けるべきものです。
もちろん、エンジェル税制認定企業を設立すれば、自動的に税制優遇を受けられるわけではありません。
投資家要件、外部資本要件、設立年数、研究開発、営業損益、確認申請等の要件を満たし、実態ある事業を継続しながら、毎期、要件を確認していく必要があります。
しっかりとした設計思想のもとに行うべきであり、安易に行ってはいけません。
制度を先に考えるのではなく、自社と自社を取り巻く御客様の未解決課題と研究開発の方向性を先に定め、
正しい順番で設計し、正しい経営を続けることが絶対に必要なのです。
大事なことなので、もう一度お伝えします。
借入で資金をまかなうことは、決して悪い選択肢ではありません。
返済を待てない資金を、成果が出るまで時間のかかる研究開発へ使うことに問題があるのです。
研究開発には、成果を待てる資金が必要です。
エンジェル税制を正しく活かせば、税金で消えるはずのお金を、
返済不要の資金、オーナー家の株式、ファミリービジネスの研究開発資産へ変えられる可能性があります。
今回までの三回のコラムでは、800万円のAI・新技術投資について、
会社経費・内部留保、役員借入金、金融機関借入、優遇措置A、プレシード・シード特例を比較しました。
結論は明確です。
オーナー社長は、目の前の800万円をどこから出すのかだけを考えてはいけません。
支出した後、十年後、二十年後に、ファミリーと事業へ何が残るのかを考えなければならないのです。
なお、本稿で試算した税額は、AIの試算に基づき一定の前提を置いた概算となります。
実際の適用可否と税額は、会社・投資家・投資時期・所得構成・借入条件等によって異なります。
実行時には、必ず税理士等の専門家へ御確認ください。
なお、利益循環型エンジェル投資、株式会社maximumの取り組み、
エンジェル税制を活用した永続不滅のファミリービジネス構築について詳しく知りたい方は、株式会社maximumまでお問い合わせください。
▶ https://www.mku-consulting.com/maximuminc/
一人でも多くのオーナー社長が、税金で消えるお金を返済不要の未来資金へ変え、
オーナー家には資金と株式資産を、
ファミリービジネスと社会には研究開発資産を残すことで、
地域と日本を豊かにする永続不滅のファミリービジネスを築かれますよう。